雅楽とは?1300年止まらずに鳴り続けた「世界最古のオーケストラ」の楽器と言葉

雅楽の演奏風景(Photo: Miya.m / CC BY-SA 3.0)
雅楽の演奏風景(Photo: Miya.m / CC BY-SA 3.0)

雅楽は「古い音楽」ではありません。

正確に言えば、「一度も止まらなかった音楽」です。西洋のクラシックで最古とされるグレゴリオ聖歌は、長い年月で歌い方が崩れ、19世紀に修道士たちが古い写本から復元しました。雅楽は違う。奈良時代に大陸から入ってきた楽器と曲が、宮中と寺社で一度も途切れることなく、今も同じ編成で演奏されています。

だから「現存する世界最古のオーケストラ音楽」と呼ばれます。

神社の結婚式で流れる、あの伸びた音。正月のテレビの、あの音。聞いたことはあるのに、何の楽器が鳴っているか答えられる人は少ない。楽器は8種類しかありません。それだけ覚えれば、雅楽は聴けます。

752年、大仏の目が開いた日に鳴っていた音楽

雅楽の起源をたどると、奈良の大仏に行き着きます。

752年、東大寺の大仏の開眼供養。目に墨を入れる儀式のあと、境内で大規模な舞と音楽が演じられたことが記録に残っています。唐から、朝鮮半島から、さらに遠くから伝わった舞楽が、まとめて披露された。当時の日本にとって、雅楽は最先端の国際音楽でした。

その後、平安時代に日本人の手で整理されます。

中国系の曲を「唐楽」、朝鮮系の曲を「高麗楽」と分け、楽器編成を決め、日本古来の神楽や歌も加えた。9世紀から10世紀ごろに、今の雅楽の形はほぼ完成しました。以来、宮中の楽人がそれを親から子へ伝え続け、現在は宮内庁の楽部が引き継いでいます。2009年にはユネスコの無形文化遺産に登録されました。

1300年。長さより驚くのは、途中で誰も「新しくしよう」としなかったことです。

その代わり、楽器が一つ一つ役を持っています。

楽器は8種類——「三管三鼓両絃」で全部

笙。17本の竹の管を束ねた楽器(メトロポリタン美術館蔵)
笙。17本の竹の管を束ねた楽器(メトロポリタン美術館蔵)

雅楽の器楽合奏「管絃」の楽器は、8種類です。

管楽器が3つ。笙、篳篥、龍笛。打楽器が3つ。鞨鼓、太鼓、鉦鼓。絃楽器が2つ。琵琶と箏。合わせて「三管三鼓両絃」と呼びます。

役割ははっきり分かれています。

管が旋律と響きを担い、打楽器が拍を刻み、絃は音の輪郭を飾る。西洋のオーケストラのように弦楽器が主役になることはありません。主役は、息で鳴る3つの管です。

そのうち、いちばん変わった楽器から見ていきます。

笙は火鉢で温めてから吹く——「天から差す光」の楽器

笙は、17本の竹の管を束ねた楽器です。

吹いても吸っても音が出て、同時に5つも6つも音を重ねられる。あの、空気の層のように広がる和音は笙の音です。雅楽ではこの響きを「天から差し込む光」に例えます。

演奏前、奏者は笙を火鉢や電熱器にかざして温めます。

管の中に息の湿気がたまると、金属の簧(リード)が鳴らなくなるからです。舞台の脇で楽器をあぶっている姿は、雅楽の演奏会でしか見られない光景です。曲の途中でも、休みのあいだに温め直す。1300年前から変わらない手入れの仕方です。

光の楽器が天なら、地の楽器もあります。

篳篥は18センチで、いちばん大きな音を出す

篳篥(右)と、口にくわえる蘆舌(左)
篳篥(右)と、口にくわえる蘆舌(左)

篳篥は、長さ18センチほどの短い縦笛です。

小さいのに、雅楽で最も大きく、最も太い音が出ます。管の先に葦で作った蘆舌と呼ばれる幅の広いリードをはめ、それを口の中で振わせる。旋律の主役はこの楽器です。神社で聞く「あの伸びた音」は、たいてい篳篥の音です。

音の高さを唇の力で滑らかに変える奏法があり、これを「塩梅」と呼びます。

笙が天の光、篳篥が地の声。そして龍笛は、天と地のあいだを飛ぶ龍の鳴き声に例えられる横笛です。3本の管で、天、地、空を表す。楽器の役が宇宙の配置になっています。

では、この合奏を誰がまとめているのか。

指揮者はいない。鞨鼓が「音頭を取る」

雅楽に指揮者はいません。

代わりに、小さな太鼓の鞨鼓を打つ奏者が合奏をまとめます。曲の始まりの合図を出し、速さを決め、終わりを告げる。鞨鼓の奏者は楽団の中で最も経験のある人が務めるのが習わしです。

拍の感覚も西洋音楽とは違います。

雅楽の拍は、伸びたり縮んだりします。曲の始まりはゆっくりで、進むにつれてわずかに速くなる。聴いていて「合っていない」ように感じる瞬間があるとしたら、それはずれではなく、この呼吸です。

「打ち合わせ」「塩梅」「野暮」——雅楽から来た日本語

雅楽が1300年続いた証拠は、日本語の中に残っています。

雅楽が語源だと言われる言葉を挙げます。諸説あるものも含みますが、雅楽の世界では次のように語られています。

  • 打ち合わせ:演奏の前に打楽器と管楽器の呼吸を合わせたことから
  • 音頭を取る:主旋律を吹く首席奏者を「音頭」と呼んだことから
  • 塩梅:篳篥で音の高さを滑らかに変える奏法の名から
  • 野暮:笙の17本の管のうち「也」と「毛」の2本は音が出ないことから、という説
  • 二の句が継げない:歌の「朗詠」で二の句が高くて歌いにくいことから
  • 千秋楽:法会の最後に演奏された同名の曲から、という説

会議の前の打ち合わせも、料理の塩梅も、元をたどると平安時代の楽人の言葉だった。そう考えると、雅楽は遠い音楽ではなくなります。

『越天楽』を聴くと、『黒田節』が出てくる

雅楽でいちばん有名な曲は『越天楽』です。

神社の結婚式や、正月の放送で流れるのはほぼこの曲。篳篥が旋律を吹き、笙が和音を広げ、龍笛が上を飛ぶ。3分から4分ほどの短い曲で、初めて聴くなら、まずこれで3つの管の音を聞き分けてください。

そして旋律を口ずさんでみると、あることに気づきます。

福岡の民謡『黒田節』と同じ旋律です。『黒田節』は『越天楽』の旋律に歌詞をつけた歌から生まれたものです。平安の宮中の曲が、江戸の武士の酒の歌になり、今も宴会で歌われている。1300年の音楽は、こんな形でも生きています。

面をつけて舞う『蘭陵王』——舞楽の見方

俵屋宗達『舞楽図屏風』(右隻)、醍醐寺
俵屋宗達『舞楽図屏風』(右隻)、醍醐寺

音楽に舞がつくと「舞楽」になります。

いちばん人気のある演目は『蘭陵王』。中国の伝説の武将が、美しすぎる顔を隠すために恐ろしい面をつけて戦った、という物語を舞にしたものです。金色の面に、赤い装束。一人で舞う。

舞楽は左右で色が分かれています。

中国系の唐楽の舞は赤い装束で左から、朝鮮系の高麗楽の舞は緑の装束で右から登場する。上の屏風に描かれた舞人も、その色で見分けられます。速い動きはほとんどありません。ゆっくり足を踏み、袖を返す。西洋のバレエと正反対の身体です。

よくある質問

Q. 雅楽はどこで聴けますか?
宮内庁楽部の公開演奏会や、各地の神社・寺院の行事、雅楽団体の公演で聴けます。日程は各公式サイトで確認してください。まずは動画配信で『越天楽』を聴くのが手軽です。

Q. 楽器を習うことはできますか?
各地に雅楽の教室や団体があり、篳篥や龍笛から始める人が多いです。楽器はプラスチック製の入門用もあります。

まとめ:今夜、『越天楽』で3つの管を聞き分ける

  • 雅楽は奈良時代に伝来し、平安時代に今の形になった。一度も途絶えていない
  • 楽器は8種類。笙が和音、篳篥が旋律、龍笛が上を飛ぶ
  • 指揮者はおらず、鞨鼓の奏者が合奏をまとめる
  • 「打ち合わせ」「塩梅」「野暮」など、雅楽から来たとされる日本語がある
  • 『越天楽』の旋律は『黒田節』に、舞楽の『蘭陵王』は面の舞に生きている

今夜やることは一つです。動画配信で『越天楽』を探して、4分だけ聴いてください。最初に伸びる太い音が篳篥、その下に広がる和音が笙、上を飛ぶのが龍笛。3つが聞き分けられたら、次は神社で流れたとき、火鉢で温めた笙の音だとわかります。

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