ニジェール出身のギタリストBombinoとは? 亡命とドキュメンタリーが生んだ音楽

内戦のさなかに国を追われ、隣国で難民として暮らした若者が、数年後にはThe Black Keysのメンバーがプロデュースするアルバムでビルボードのチャートを制する。Bombino(ボンビーノ)はそういう経歴を持つギタリストです。西アフリカ・ニジェール出身、トゥアレグ族。プロデューサーを替えながらアルバムごとに違う顔を見せる、その作り方が面白いミュージシャンです。
同じニジェールのトゥアレグ族から出てきたギタリストに、自作ギターで独学したMdou Moctarがいます。Bombinoの道のりは似ているようで別物です。彼を世に出したのは一本のドキュメンタリー映画と、複数のプロデューサーとの仕事でした。
どんなミュージシャンか
本名はGoumour Almoctar。1980年1月1日、ニジェールの都市アガデスから北東へ約80キロのトゥアレグ人居住地ティデネに生まれました。「Bombino」はイタリア語の「bambino(子ども)」に由来するあだ名で、十代でギタリスト、ハジャ・ベベのバンドに加わった際、最年少で小柄だったことから付けられました。
1990年、トゥアレグ反乱が勃発すると父と祖母とともにアルジェリアへ逃れます。この避難生活の中で親戚が残したギターを独学で弾き始め、後にハジャ・ベベに師事しました。1997年にアガデスへ戻り、プロ活動を始めています。
二度の亡命とドキュメンタリー映画
2007年、トゥアレグの再度の武装蜂起に政府の弾圧が強まり、Bombinoは再びブルキナファソの首都ワガドゥグへ逃れます。この頃、映画監督ロン・ワイマンが彼の演奏を収めたカセットテープに惹かれ、本人を探し当てました。
こうして生まれたのがドキュメンタリー映画『Agadez, the Music and the Rebellion』です。反乱下のニジェールを生きるギタリストを追った作品で、2010年に完成しました。同じ年、和平合意でニジェールに戻ったBombinoは、アガデスの大モスク前でスルタンの許可を得て大規模なコンサートを開き、千人を超える観客を集めています。
Dan Auerbachとの『Nomad』
2013年、The Black Keysのメンバーであるプロデューサー、Dan Auerbachが自身のナッシュビルのスタジオ、Easy Eye SoundでBombinoのアルバム『Nomad』を制作します。Nonesuch Recordsからリリースされたこの作品は、発売初週にビルボードのワールドミュージック・アルバムチャートで1位を獲得しました。Rolling Stoneは「新しいギターヒーローの登場」と評しています。
The Black Keysのアルバムを手掛けたのと同じ耳が音を整えたと考えると、ロックを聴いてきた人には距離感がつかみやすいはずです。ブルースやソウルの質感が、トゥアレグ音楽のリフの上に乗っています。
プロデューサーを変えながら重ねてきたアルバム
Bombinoの特徴は、作品ごとにプロデューサーを替えている点です。2016年の『Azel』では、インディーバンドDirty Projectorsのデイヴ・ロングストレスを起用し、レゲエのビート感を混ぜた「Tuareggae」というスタイルを打ち出しました。2018年の『Deran』はアフリカで録音され、最も土着的な作品と評されています。第61回グラミー賞のベスト・ワールドミュージック・アルバム部門にノミネートされ、ニジェール出身者として初めての快挙となりました。
2023年の『Sahel』は、パンデミック下で長く自宅にとどまった時期を経て作られました。ウェールズ出身のプロデューサー、デイヴィッド・レンチとともにモロッコ・カサブランカで10日間録音。トゥアレグが置かれてきた苦しい状況に、これまで以上に踏み込んだ内容だとBombino自身が語っています。
音の特徴、誰に刺さるか
ギターのトーンは歪んでいますが、フレーズの選び方はメロディー主導です。一つのリフを延々と反復させるより、曲の中でコードやメロディーが動いていく構成が多く、レビューでは繰り返し「ソウルフル」という言葉が使われています。ブルースロックが好きな人、The Black Keysのようなガレージ寄りのバンドを聴いてきた人には、なじみやすい入り口です。
パンチの効いたリフを反復する激しさを求める人には、やや大人しく聴こえるかもしれません。ボーカルはタマシェク語で、社会的なテーマの曲も多く、言葉が分からなくても声の張りは伝わってきます。
まず聴くべき曲
Bombinoを知るなら、まずこの2曲を聴いてみてください。
「Akhar Zaman」。2016年作『Azel』のオープニング曲で、レゲエのビートとトゥアレグ音楽のギターリフを組み合わせた「Tuareggae」の代表曲です。跳ねるリズムの上を歪んだギターが滑っていく感覚がよく分かります。
「Aitma」。2023年作『Sahel』のリード曲で、サヘル地域全体の連帯を呼びかける内容とされています。ここ数年の、より骨太になった演奏を確認できる一曲です。
よくある質問
Q. Bombinoはどこの国、どの民族の出身ですか?
西アフリカ・ニジェール出身で、トゥアレグ族です。本名はGoumour Almoctar、1980年にアガデス近郊のティデネで生まれました。
Q. どのアルバムから聴き始めるのがおすすめですか?
Dan Auerbachがプロデュースした2013年の『Nomad』か、最新作である2023年の『Sahel』が入り口として聴きやすいです。
まとめ
- ニジェール出身のトゥアレグ族ギタリスト。二度の武装蜂起でアルジェリアとブルキナファソに避難した経験を持つ
- ドキュメンタリー映画『Agadez, the Music and the Rebellion』をきっかけに国際的な注目を集め、2013年『Nomad』はThe Black KeysのDan Auerbachがプロデュース
- アルバムごとにプロデューサーを替え、「Tuareggae」など新しいスタイルを試し続けている
「Akhar Zaman」のレゲエ的な跳ねと、「Aitma」の骨太なギター。この2曲を聴き比べるだけでも、彼が同じ場所にとどまっていないことが分かります。
関連アイテム
この記事に関連する本・アルバムはこちらから探せます。
※当サイトはAmazonアソシエイト・プログラムの参加者です。適格販売により収入を得ています。
