韓国インディー入門 K-POPとは違う音楽シーンを4組で聴く

韓国インディー入門 K-POPとは違う音楽シーンを4組で聴く

「韓国の音楽」と聞いて浮かぶのは、大手事務所が育てるダンス&ボーカルグループでしょう。でもソウルには、それとはほぼ接点のない音楽シーンがもうひとつあります。舞台はホンデ(弘大)、大学街の周りに小さなライブハウスとレコード店が密集するエリアです。ここを拠点に、自分たちで曲を書き、自分たちのレーベルから作品を出すバンドが活動しています。

このシーンは英語圏で「K-indie」と呼ばれ、事務所主導のアイドル文化とは制作の仕組みが違います。振付師もダンスレッスンもなく、あるのはギターとアンプ、狭いステージで鍛えられたライブの説得力です。

今回は、音の作り込みが際立つ4組を選びました。脱力系のギターロック、伝統楽器とポストロックの融合、サイケデリックなアートロック、透明感のあるシンセポップ。ジャンルはバラバラですが、どれも「韓国のインディーはここまで行くのか」という驚きがあります。

K-POPとの違い、まず押さえておきたいこと

K-POPは事務所が作曲・振付・ビジュアルまで統括する総合エンタメ産業です。対してK-indieのバンドは曲作りから機材選びまで自分たちで決めます。活動拠点もソウルの巨大スタジオではなく、ホンデのライブハウス。海外進出も事務所主導ではなく、SXSWなどのフェス出演を自力で積み重ねて広がってきました。

HYUKOH(혁오)脱力系ギターロックの代名詞

2014年5月にソウルで結成された4人組。ボーカルのオ・ヒョクは中国の延吉・瀋陽・北京で育ち、韓国語・中国語・英語を行き来する歌詞が特徴です。デビューEP『20』を経て、2017年のアルバム『23』収録曲「Comes and Goes」がホンデ発として異例の広がりを見せました。2018年にはAppleのiPhone X広告に楽曲「Citizen Kane」が起用され、2019年にはコーチェラにも出演しています。

音の質感は、乾いたギターのアルペジオとぼそぼそした歌い方が中心。力んで歌わないところが逆に耳に残ります。Mac DeMarcoの脱力したギターロックが好きな人には、違和感なく入っていける音です。

Jambinai(잠비나이)伝統楽器とポストロックの融合

2009年、韓国国立芸術大学で伝統音楽を学ぶメンバーが結成。エレキギター、ベース、ドラムに加え、げこむんご、へグム、ピリという伝統楽器が並ぶ編成です。2012年のアルバム『Différance』が韓国音楽賞のベスト・クロスオーバー・アルバム賞を受賞し、2016年以降はイギリスのレーベルBella Unionから作品をリリース。2018年の平昌冬季五輪閉会式では、げこむんごの大編成オーケストラと共演しました。

やっていることは、伝統楽器の音色をロックの構造に埋め込む作業です。海外メディアではExplosions in the SkyやGodspeed You! Black Emperorと並べて語られ、静かに積み上げて轟音になだれ込む構成は確かに近い。日本でいうと和楽器バンドの発想に近いですが、Jambinaiの方が音の重心はずっと暗く、様式化されていません。

「TIME OF EXTINCTION(소멸의 시간)」。静かなげこむんごの旋律から始まり、後半でバンド全体がノイズの塊になって押し寄せてきます。伝統楽器が添え物ではなく主役になる瞬間が、この曲には詰まっています。

Se So Neon / So!YoON!(새소년)サイケデリックとブルースの黄昏色

2016年、ファン・ソユンを中心に結成。バンド名は絶版になった児童雑誌のタイトルから取ったといいます。ブルース、サイケデリックロック、シンセの要素を行き来する演奏で、2018年の韓国音楽賞では新人賞とベストロックソング賞を受賞。2020年のEP『Nonadaptation』はPitchforkの「2020年ベストロックアルバム35選」に選出されました。2025年からはファン・ソユンひとりの「So!YoON!」名義の活動も本格化し、同年アルバム『Now』を発表しています。

ボーカルの声に濁りがあり、ギターのファズと絡んでどこか薄暮のような色をした音を作ります。ジャンルを一つに決めないアートロックという意味では、St. Vincentのギター使いに近いものを感じる人もいるはずです。

「Kidd」。バンド編成での初期衝動と、ソロ以降の実験性の橋渡しになっている曲で、荒っぽいギターの質感がそのまま残っています。

ADOY(아도이)シティポップ経由の透明なシンセポップ

2017年ソウル結成の4人組。バンド名はボーカル、オ・ジュファンが飼っていた猫「ヨダ」の逆さ読みです。2018年のEP『Love』収録「Wonder」がシーンの外にも知られるきっかけになり、以降はアジア各国やアメリカでのツアーを重ねています。

音の骨格はシンセポップですが、コード感が80年代のシティポップに近く、夏の夕方に鳴らしたくなる開放感があります。日本のシティポップ再評価の流れを聴いてきた人には、すっと馴染む音です。

よくある質問

Q. K-indie(韓国インディーズ)とK-POPはどう違うのですか?
制作体制が根本的に違います。K-POPは事務所が作曲・振付・プロモーションを統括しますが、K-indieのバンドは曲作りから活動方針まで自分たちで決め、ホンデの小規模ライブハウスを拠点に活動しています。

Q. どのバンドから聴き始めるのがおすすめですか?
ギターロックに馴染みがあるならHYUKOH、伝統楽器の融合に興味があるならJambinaiが入り口です。どちらも音源より先にライブ映像を見ると、演奏の説得力が伝わります。

まとめ

  • K-indieは事務所主導のK-POPとは制作体制が異なる、バンド主体のシーン
  • HYUKOHは脱力系ギターロック、Jambinaiは伝統楽器とポストロック、Se So Neon/So!YoON!はサイケデリックなアートロック、ADOYはシンセポップ
  • 4組とも自国メディアだけでなく、Bella UnionやPitchforkなど海外でも評価されてきた実績がある

まずはJambinaiの「TIME OF EXTINCTION」を通しで聴いてみてください。伝統楽器がロックの主役になる感覚は、他のどのシーンでもなかなか味わえません。

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