マリ発「デザートブルース」の生みの親、Tinariwen(ティナリウェン)とは?

マリ発「デザートブルース」の生みの親、Tinariwen(ティナリウェン)とは?

ワンコードのギターリフが延々と繰り返され、その上に低い声のコール&レスポンスが乗る。派手なソロもキメも少ないのに、聴いているうちに体が引き込まれていく感覚があります。マリのサハラ砂漠地帯を拠点にするトゥアレグ族のバンド、Tinariwen(ティナリウェン)の音楽です。

「デザートブルース」あるいは「ティシュマーレン」と呼ばれるジャンルの創始者的存在とされ、後続世代であるMdou Moctarらの土台を作ったバンドでもあります。結成の経緯は音楽業界のサクセスストーリーとは程遠く、難民キャンプと軍事訓練キャンプの記憶を抱えたまま今も演奏を続けています。

どんなバンドか

Tinariwenの母体は1979年、アルジェリアの難民キャンプで育ったトゥアレグの若者たちの間に生まれました。中心メンバーのイブラヒム・アグ・アルハビブは、西部劇でギターを弾くカウボーイの姿に憧れて演奏を始めたと語っています。1980年、リビアのカダフィ政権が若いトゥアレグ男性を対象に軍事訓練を呼びかけると、アルハビブたちもこれに応じて参加し、そこで出会った仲間たちとバンドとしての活動を本格化させました。バンド名の「ティナリウェン」は、タマシェク語で「砂漠」を意味する「テネレ」の複数形で、「多くの砂漠」「砂漠の民」といった意味を持ちます。

長らく正式なデビュー作を出さずに活動していましたが、2001年の『The Radio Tisdas Sessions』で本格的に国際デビュー。2011年の『Tassili』、2023年にはダニエル・ラノワがプロデュースした『Amatssou』、2026年には新作『Hoggar』を発表するなど、40年以上にわたって現役で作品を出し続けています。

結成の背景、リビアの難民キャンプと反乱の記憶

Tinariwenが生まれた土壌は「イシュマール」と呼ばれる存在です。フランス語の「失業者」に由来する言葉で、干ばつや紛争でマリを追われ、国境をまたいで放浪していたトゥアレグの若者たちを指します。彼らの多くが行き着いたのがリビアで、1980年代にはカダフィ政権の軍事訓練キャンプに身を置きながら曲を作っていました。

キャンプ内に簡易スタジオを作り、空のカセットテープを持ってきた人には無償で録音してあげるという活動を続けたところ、その曲がサハラ一帯に手渡しで広まっていきます。1990年にマリで起きたトゥアレグ反乱には、一部のメンバーが戦闘員として参加。1991年の和平合意後、ようやく音楽活動に軸足を移しました。ロックバンドの結成秘話としては、かなり異色の部類に入ります。

世界的評価と数々の交流

2012年、アルバム『Tassili』で第54回グラミー賞のベスト・ワールド・ミュージック・アルバム部門を受賞しました。同作にはTV on the Radioのチュンデ・アデビンペとカイプ・マローンが参加した「Tenere Taqqim Tossam」や、Wilcoのネルス・クラインが加わった楽曲も収録されています。「Tenere Taqqim Tossam」はTV on the Radioのメンバーと共に、米テレビ番組「The Colbert Report」でも披露されました。

2012年1月にはマリの「フェスティバル・イン・ザ・デザート」に、U2のボノが飛び入りで登場し、Tinariwenと即興セッションを繰り広げたことも記録されています。砂漠の遊牧民の音楽が、ロックのメインストリームと直接つながった瞬間でした。

音の特徴、誰に刺さるか

ギターのリフはコードをほとんど変えずに反復し続け、そこに手拍子と斉唱に近いボーカルが重なります。イメージを掴むなら、ブルースの元祖のひとりジョン・リー・フッカーが得意とした「コード進行を変えずに同じグルーヴを鳴らし続ける」スタイルに近いと考えるとわかりやすいところです。ギターソロで盛り上げるロックとは違い、じわじわと繰り返しの中に沈み込んでいく音楽です。

ドラムセットの代わりにテンデと呼ばれる太鼓や手拍子がリズムを支える曲も多く、装飾を削ぎ落とした音の隙間に緊張感が宿ります。日本でも知られるようになったMdou Moctarは、この系譜の次の世代にあたるギタリストで、Tinariwenはその源流にいる存在です。派手な展開よりも、じっくり体に染み込ませる音楽が好きな人に向いています。

まず聴くべき曲

Tinariwenを知るなら、まずこの2曲から聴いてみてください。

「Tenere Den」。2023年作『Amatssou』のリード曲で、ペダルスティールが絡む珍しい編成ながら、コード進行を反復させるバンドの核は変わりません。乾いたギターの音色がよくわかる一曲です。

「Sagherat Assani」。2026年発表の最新作『Hoggar』の先行曲で、スーダンの伝統歌をスーダン出身の歌手スラファ・エリヤスと共に演奏しています。トゥアレグの音楽が国境を越えて広がり続けている今を示す一曲です。

よくある質問

Q. Tinariwenという名前にはどんな意味がありますか?
タマシェク語で「砂漠」を意味する「テネレ」の複数形で、「多くの砂漠」「砂漠の民」を意味します。1979年にリビアで結成されました。

Q. どのアルバムから聴き始めるのがおすすめですか?
グラミー賞を受賞した2011年の『Tassili』か、2023年の『Amatssou』が入り口として聴きやすいです。最新情報は公式サイトで確認してください。

まとめ

  • 1979年にリビアの難民キャンプで結成、「デザートブルース」の創始者とされるトゥアレグ族のバンド
  • 干ばつと紛争、軍事訓練キャンプ、カセットテープでの口コミ拡散という異色の成り立ちを持つ
  • 2012年にグラミー賞受賞、ボノとの即興セッションなど海外アーティストとの交流も多い

「Tenere Den」を一曲通して聴いてみてください。反復の中に少しずつ入り込んでくる感覚があります。

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