ラヴェル『ボレロ』はなぜメロディー2つで15分もつのか?

モーリス・ラヴェル(1925年撮影)
モーリス・ラヴェル(1925年撮影)

『ボレロ』は、盛り上がる曲ではありません。

こう書くと反論が来そうです。あの曲ほど盛り上がる音楽はない、最後は爆発する、と。確かに終わりは爆発します。ただ、ラヴェルがやったことは「盛り上げる」の反対でした。15分のあいだ、何も変えない。メロディーは2つだけ。リズムは最初の1小節から最後まで同じ。速さも変わらない。調も、最後の数小節を除いて動かない。

普通の音楽が持っている「変化」を、ラヴェルはほとんど全部捨てました。

残したのは、たった一つ。音の大きさです。ささやくような小太鼓から始まり、15分かけて一度も引き返さずに大きくなっていく。それだけの曲が、世界でいちばん演奏される管弦楽曲の一つになりました。私はこの曲を、音楽というより実験の記録として聴いています。何を捨て、何を残したのか。順番に見ていきます。

小太鼓は15分、同じ2小節を叩き続ける——『ボレロ』の骨組み

『ボレロ』の始まりは、小太鼓のかすかな音です。

小太鼓(スネアドラム)(Photo: Stephan Czuratis (Jazz-face) / CC BY-SA 2.5)
小太鼓(スネアドラム)(Photo: Stephan Czuratis (Jazz-face) / CC BY-SA 2.5)

3拍子の、2小節ぶんの短いリズム。タタタタ、タタタタ、タンタン。この2小節が、曲の最初から最後まで、一度も変わらずに繰り返されます。奏者は15分間、同じ手の動きを続ける。楽器の中でいちばん地味で、いちばん残酷な役目です。

その上に、フルートが最初のメロディーを吹きます。

これをAとしましょう。スペイン風の、くねくねと下降する旋律。次にクラリネットが同じAを吹き、続いてファゴットが2つ目のメロディーBを吹く。Bはもっと粘り気があって、ため息のように半音で下がっていきます。Aを2回、Bを2回。これで1組です。

あとは、この組を楽器を変えながら繰り返すだけ。

Aが来て、Aが来て、Bが来て、Bが来る。9回ほど巡ると、曲は終わりに近づきます。新しいメロディーは最後まで出てきません。転調もありません。曲の終わり間際に一度だけ、ハ長調からホ長調へ調が跳ね上がり、すぐ戻って崩れ落ちるように終わる。その数小節が、15分でただ一度の「変化」です。

では、変化のない15分は、何で聴かせるのか。

答えは「誰が吹くか」でした。

変わるのは音色だけ——ラヴェルが仕掛けた楽器のリレー

ダンサー、イダ・ルビンシュタイン。『ボレロ』は彼女の依頼で作られた(ヴァレンティン・セローフ画、1910年)
ダンサー、イダ・ルビンシュタイン。『ボレロ』は彼女の依頼で作られた(ヴァレンティン・セローフ画、1910年)

『ボレロ』を初めて通して聴くとき、聴くべきものは一つです。メロディーがどの楽器に渡っていくか。

フルート、クラリネット、ファゴット、小さなクラリネット、オーボエ・ダモーレ。木管楽器が一人ずつ、ひそひそ声で同じ旋律を歌い継いでいきます。やがてトランペットが弱音器つきで加わり、テナーサックス、ソプラニーノサックスと、当時のオーケストラでは珍しい楽器が次々に前へ出る。

途中には、耳を疑う場面があります。ホルンとチェレスタとピッコロが同時に同じ旋律を吹き、パイプオルガンのような、一つの楽器では出せない音色になる。あれは楽器の足し算で作った幻の楽器です。

終盤、トロンボーンがずり上がるように歌い、最後は全員が同じ旋律を叫びます。

つまりこの曲は、メロディーの発展ではなく「音色の発展」で組み立てられています。同じ言葉を、違う声の人が順に読み上げる。声が一人、二人、十人、百人と増えていくうちに、同じ言葉が別の意味を持ち始める。ラヴェルは「管弦楽法」と呼ばれる楽器の使い分けの名人でした。『ボレロ』は、その名人が自分の技術だけで一曲作れるかを試した曲です。本人はこの曲を「音楽のない管弦楽曲」と呼んだと伝えられます。

依頼したのは、上の絵の女性でした。

1928年、ロシア出身のダンサー、イダ・ルビンシュタインが、自分のバレエ団のためにスペイン風の曲をラヴェルに頼みます。ラヴェルは当初、別の作曲家のピアノ曲を編曲してすませるつもりでした。ところが権利の問題で使えないとわかり、急きょ自分で書く。そうして生まれたのが、この実験でした。

初演の舞台は、スペインの酒場。テーブルの上で一人の女が踊り始め、周りの男たちが少しずつ引き寄せられ、最後は全員が踊りに巻き込まれる。音楽の設計と、そのまま同じ筋書きです。

「この女性は正しい」——初演で叫んだ観客と、ラヴェルの答え

1928年11月、パリのオペラ座での初演。

客席の一人の女性が、終演後に「狂人だ」と叫んだと伝えられます。ラヴェルはそれを聞いて、「あの人はこの曲を理解している」と答えたとか。真偽はともかく、作曲家自身が、この曲を正気の音楽とは思っていなかったことをよく表す逸話です。

ラヴェルは、この曲が代表作扱いされることに戸惑っていました。

自分では実験のつもりだった曲が、どの作品よりも人気になる。ラヴェルには『ダフニスとクロエ』も『亡き王女のためのパヴァーヌ』もあります。それでも人は『ボレロ』を求めた。速さについても本人はうるさく、名指揮者トスカニーニが速いテンポで演奏したときには「それは私の曲ではない」と抗議したと伝えられます。ゆっくり、機械のように、一定に。ラヴェルが望んだのは、人間の情熱ではなく、止められない機械の運動でした。

1937年、ラヴェルは脳の病気のため62歳で亡くなります。晩年は頭の中に音楽があるのに、それを書き取ることができなくなっていました。同じことを繰り返し、少しずつ大きくなる『ボレロ』を、私はときどき、その病気の予告のように聴いてしまいます。同じ動作を繰り返す機械の音楽を書いた人が、最後には自分の手を動かせなくなった。

これは事実ではなく、私の感傷です。事実は、もっと単純です。2つのメロディーと1つのリズムで、15分は持つ。ラヴェルがそれを証明した。それだけです。

よくある質問

Q. 『ボレロ』の演奏時間はどのくらいですか?
指揮者によって差がありますが、おおむね15分前後です。ラヴェル自身はかなり遅いテンポを望んでいたと伝えられ、速い演奏には批判的でした。

Q. スペインの「ボレロ」という踊りと同じですか?
題名はスペインの舞曲ボレロから取られていますが、実際の民俗舞曲とは拍子やリズムが異なります。ラヴェルはスペインに近いバスク地方の血を引く母を持ち、スペイン風の作品を多く書きました。

Q. 初めて聴くなら何に注意すればいいですか?
メロディーがどの楽器に渡ったかを追ってください。小太鼓のリズムが同じであることも意識すると、変わるのは音色と音量だけだと体でわかります。

まとめ:今夜、楽器のリレーを数える

  • 『ボレロ』はメロディー2つ、同じリズム、同じ速さ、ほぼ同じ調の15分
  • 変わるのは音の大きさと、メロディーを吹く楽器だけ。管弦楽法の実験だった
  • ダンサー、イダ・ルビンシュタインの依頼で1928年に作曲・初演された
  • ラヴェル本人は代表作扱いに戸惑い、速い演奏に抗議した

今夜やることは一つ。『ボレロ』を一度、最初から最後まで通して聴き、メロディーが何回、どの楽器に渡るかを数えてください。数え終わったとき、「盛り上がる曲」だと思っていた15分が、何も変えなかった15分に見えてきます。

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