世界の民族楽器めぐり——音で旅する地球の楽器たち

見たことも聞いたこともない楽器から、思いがけず美しい音色が生まれる瞬間。旅先で耳にした音楽が忘れられなくなった、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。世界には、その土地の気候や暮らし、信仰と深く結びついて生まれた民族楽器が数多く存在します。
この記事では、インドのシタールから日本の三味線・尺八まで、世界各地を代表する民族楽器を、その背景にある文化や有名なエピソードとあわせてご紹介します。読み終えるころには、知らない国の音楽を聞いてみたくなっているはずです。
シタール——インドの音色とビートルズとの縁
シタールは、インドを代表する弦楽器です。長い棹に多くの弦が張られ、独特のうねるような響きを奏でます。演奏中に弦がびりびりと共鳴し続ける「ジャワリ」と呼ばれる独特の音色が特徴で、瞑想的な雰囲気を持つインド古典音楽には欠かせない存在です。
シタールが世界的に知られるきっかけとなったのが、ビートルズのジョージ・ハリスンです。彼はインド音楽の巨匠ラヴィ・シャンカルに師事してシタールを学び、楽曲にその音色を取り入れました。西洋のロックバンドがインドの伝統楽器を使うという当時としては斬新な試みは大きな話題となり、世界中でシタールとインド音楽への関心が高まるきっかけになったといわれています。ラヴィ・シャンカルの演奏音源は、インドの老舗レーベルSaregamaのチャンネルでも公開されています。
ジャンベ——西アフリカの太鼓が持つ力強さ
ジャンベは、西アフリカ発祥の片面太鼓です。木をくり抜いた胴に山羊などの皮を張り、素手で叩いて演奏します。低い重低音から乾いた高音まで、一つの太鼓から幅広い音色を引き出せるのが特徴で、その表現力の豊かさから、現在では世界中のパーカッション愛好者に親しまれています。
もともと西アフリカでは、ジャンベは単なる楽器ではなく、儀式や祝祭、共同体の集まりに欠かせない存在でした。太鼓のリズムを通じて人々が言葉を交わすように意思疎通を図る「トーキングドラム」的な役割を担う場面もあり、音楽と生活が分かちがたく結びついていることがうかがえます。
ディジュリドゥ——オーストラリア先住民の息づく音
ディジュリドゥは、オーストラリア先住民アボリジニに伝わる管楽器です。シロアリに食べられて自然に空洞になったユーカリの木の幹を利用して作られ、外見はただの筒のようですが、奏でられる音は地の底から響くような独特の低音です。
演奏の最大の特徴は「循環呼吸」という技法です。息を吐きながら同時に鼻から息を吸い込むことで、途切れることなく延々と音を出し続けることができます。この呼吸法を習得するには長い練習が必要とされ、単なる楽器演奏の技術を超えた、身体と一体化した表現ともいえるでしょう。アボリジニの人々にとって、ディジュリドゥは儀式や物語の伝承と深く結びついた神聖な楽器でもあります。
バグパイプ——スコットランドの誇り高い響き
バグパイプは、風船状の袋に空気をため、複数の管から同時に音を出す楽器です。世界各地に類似の楽器が存在しますが、なかでもスコットランドのバグパイプは、軍楽隊のパレードや伝統行事の映像などでご存じの方も多いのではないでしょうか。
甲高く力強い音色と、途切れることのない持続音が生み出す独特の高揚感は、スコットランドの民族衣装キルトとともに、その土地のアイデンティティを象徴する存在となっています。結婚式や葬儀、国家的な式典まで、人生の節目に欠かせない楽器として、今も大切に受け継がれています。
三味線・尺八——海外でも人気の日本の音
日本の伝統楽器である三味線と尺八も、世界に誇る民族楽器です。三味線は猫や犬の皮を張った胴に三本の弦を張り、撥で弾く弦楽器で、歌舞伎や民謡、津軽三味線の力強い独奏まで幅広い音楽に用いられます。尺八は竹製の縦笛で、息づかいそのものが音になったような、余白の多い深みのある音色が特徴です。
近年では、津軽三味線の速弾きの演奏が海外の動画サイトで話題になったり、尺八の音色が禅や瞑想と結びつけて紹介されたりするなど、日本の伝統楽器への関心は海外でも高まっています。古くからの楽器でありながら、現代的な音楽と組み合わせた新しい表現も次々と生まれています。津軽三味線ユニット・吉田兄弟の公式チャンネルでも、速弾きの演奏を見ることができます。
ガムラン——インドネシアの響きとドビュッシー
ガムランは、インドネシアのジャワ島やバリ島で発展した合奏音楽、およびそこで使われる楽器群の総称です。銅などの金属でできた鍵盤打楽器や銅鑼、太鼓などが組み合わさり、複数の奏者が呼吸を合わせて演奏することで、幾重にも重なる金属的な響きが生まれます。
このガムランの音色に強く惹かれた作曲家として知られるのが、フランスの作曲家ドビュッシーです。19世紀末のパリ万国博覧会でガムランの演奏を聴いたドビュッシーは、西洋音楽にはない音階や響きの重なりに衝撃を受け、その後の自身の作品にも大きな影響を与えたといわれています。遠く離れた地域の伝統音楽が、西洋クラシック音楽の歴史にまで影響を及ぼしたという事実は、音楽が国境を越える力を持つことをよく物語っています。
楽器から見える文化のかたち
こうして世界各地の民族楽器を眺めてみると、楽器はその土地の気候や信仰、暮らしのあり方と切っても切り離せない存在であることがわかります。素材は身近にある木や竹、動物の皮から作られ、演奏の場面は儀式や祝祭、日々の生活と結びついています。楽器の音を聞くことは、その土地の人々の暮らしそのものに耳を傾けることでもあるのです。
普段なじみのない楽器の音を一度聞いてみると、思いがけない発見があるかもしれません。まずは気になった楽器から、音源を探して聞いてみてはいかがでしょうか。
よくある質問
Q. 民族楽器と伝統楽器はどう違いますか?
明確な線引きがあるわけではありませんが、一般的に「民族楽器」はある地域や民族の文化と結びついた楽器全般を指す、より広い言葉として使われています。
Q. 初心者でも民族楽器の演奏を体験できますか?
ジャンベなど一部の楽器は、体験教室やワークショップが開催されていることがあります。開催状況は主催団体の公式サイトで最新情報を確認するとよいでしょう。
Q. これらの楽器の音源はどこで聞けますか?
音楽配信サービスや専門レーベルのアルバムで、各地の民族楽器を収録した音源が数多く紹介されています。まずは有名な奏者の演奏から聞いてみるのがおすすめです。
まとめ
- シタールはインドの弦楽器で、ビートルズのジョージ・ハリスンを通じて世界的に知られるようになった
- ジャンベやディジュリドゥは、儀式や共同体の暮らしと深く結びついた楽器
- バグパイプは、スコットランドの誇りを象徴する存在として今も大切にされている
- 三味線・尺八など日本の伝統楽器は、海外でも人気が高まっている
- ガムランの響きは、作曲家ドビュッシーにも影響を与えた
楽器の音色を通して、まだ知らない国の文化に触れてみてください。
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