デザイナーが選ぶジャケットデザインと解説【スピッツのアートワーク編】
こちら、私の本棚の一部。
スピッツ大好きです。
なのでNIRVANA、ハード系ジャケットときて、ここでスピッツいっちゃいます。
http://doing-art.co.jp/hardartwork
可愛いこぶってんじゃねーよと思うかもしれませんが、スピッツの世界観はポップだけじゃ表現できないのです。ディズニーに例えるなら、白雪姫や、不思議の国のアリスなど昔のディズニーの世界観。可愛いんだけどちょっと不気味、ポップなメロディーの中に闇が潜んでいるイメージ。
資料を読み返しながら久々に曲を聴いていたら、またファンになってしまった。好きなものはいつまでも好きだし、良いものはやっぱりいいですよね。
たまにはJ-POPもいいじゃない。てことで、今回も独断と自己解釈全開でお送りしたいと思います。
スピッツ
ご存知、スピッツは1987年に結成された4人組のロックバンド。新宿ロフト、新宿JAM、下北沢屋根裏など、都内のライブハウスを中心に活動し、1991年にメジャーデビュー。以降、メンバーチェンジは1度もない。有名なのはミリオンを記録した、ロビンソン、チェリーなどなど。
もうデビュー30周年を迎えていますが、人気は衰えることを知らない。同期はミスチル。この90年代の2大バンドは本当すごいですよね。名曲ばかりだし、カラオケいけば誰かしら必ず歌う。嫌いな人とかあまりいないんじゃないでしょうか。
私がスピッツをちゃんと聴き始めたのは、10年くらい前。きっかけは親友。彼女はファンクラブ会員で筋金入りのスピッツファン。
彼女が一番好きだった曲の歌詞に「広すぎる霊園の側の このアパートは薄ぐもり 暖かい幻を見てた」(猫になりたい/スピッツ) とあって。クレイジーな彼女は霊園、すなわち大きな墓の前にアパートを借りたほど。遊びに行くとき毎晩墓の前を通らなきゃいけなくて、超怖かったです。
同棲かよってほど毎日一緒にいたので、エブリデースピッツ流れてる → エブリデースピッツの逸話聞かされる → ツアー地元来るってよ! → 初スピッツLIVE → 開始10秒、イントロで号泣 → ファンに。Hamajiちょろいんです。
草野マサムネの描く歌詞
売れるバンドには大抵カリスマがいますが、スピッツで言えばボーカル・草野マサムネ。全ての曲の作詞作曲、他アーティストへの楽曲の提供、そしてなんといっても透き通った儚い歌声。
スピッツといえば草野さんでしょうみたいな感じになってますが、30年という長い期間スピッツを支えてきた功労者であるリーダ田村(Ba)、三輪(Gt)、崎山(Dr)ももちろん素晴らしいです。
インタビューやライブを見てるとわかりますが、この4人とっても仲良し。性格がとても穏やかなんでしょう。今でも移動の車は一緒で、一緒によく遊びよく話すそうです。
草野さん以外のメンバーが、彼をとてもリスペクトし、彼の世界観を尊重しているのがわかります。何年経っても草野がデモ送って来るときが時が一番ワクワクするって誰かがインタビューで答えてました。4人が生み出す空気感やメロディーはやはり特別で、あー全員揃ってスピッツっという安定感があります。
草野マサムネは美大出身
私はストレートに伝わる日本語の恋愛ソングとかが恥ずしくて邦楽の歌詞というものに苦手意識がありました。なのでなんとなくぼかしてる曲とか、歌詞の意味がわからない洋楽とか好きだったんですがスピッツは歌詞から好きになった唯一のバンド。
それまで音楽をビジュアル化するのは音の色だけって思ってましたが、草野さんの歌詞には謎解きのような深いストーリー性があります。一曲一曲に物語があり、独特の言葉で歌詞を紡ぐ。
同期のミスチルの作詞もボーカル桜井さんですが、どちらかといえば桜井さんはストレートな経験や言葉が歌詞になっていて、リアルに自分の人生を重ね、共感することができます。
草野さんはその逆で、妄想や人間の愚かさとかその辺の曖昧な世界を歌詞にしてるので最初は?と思っても、読み解いていくとおーーーなるほどね!ってなります。2バンドともすごい売れてるけど、その対照的な世界観の違いも面白いです。
のちに武蔵野美術大学出身と知り、なるほどなと思いました。彼の歌詞は、絵を描くように書かれているので。
こちら草野さん直筆のイラスト。忘れましたがファンクラブ会報の表紙だったかな?うまいし、なかなかぶっ飛んでます。てことで、スピッツを聴くときは歌詞にも注目してみると面白いと思います。
CDジャケットデザイナー・木村豊
やっと本題です。これはすごく書きたかったのでリターンキーを叩く指が高揚しております。ふぅ。落ち着けHamaji。
海外のレコジャケってほんとかっこいいと思います。ヒプノシス、Big active、tomatoなどなど、洋楽とクールデザインは切っても切れない関係。
私も彼らに憧れてCDジャケットに手を出したデザイナーの端くれですが、CDが消えてなくなりそうなこのご時世、それだけで生計を立てるってまず無理です。
J-POP全盛期だった90年代は日本でも海外撮影やったり海外のフォトグラファー使ったりと、CDジャケットにかけている予算もすごかったですがCDの売れ行きが曇り始めた2000年以降は予算も削られ、CDの売り上げだけでは厳しく、ライブやグッズの売り上げが要求される時代になりました。
そんな現代の日本で、CDジャケットデザイナーという職業を確立している孤高のオーサムクリエイターがこの人。
彼の名は、YUTAKA KIMURA。無駄に英語で言ってみました。
木村豊。元ソニーミュージックの制作で、1995年独立。個人事務所名はCentral67。スタッフも雇わず、スケジューリング、制作などなど、ぜーんぶ一人でやってるようです。死んだらJ-POPが困る人なんてタイトルの本があるくらいなのです。
手がけるアーティストもスピッツ、椎名林檎など大物ばかり。私は7年前アシスタント募集に応募して、見事落選。笑 その時のメールは今も大切に保管しています。デザイナーを志してから、CDを買ったら必ずブックレットの制作クレジットをチェックしてますが(色々見てると旬のフォトグラファーやデザイナーがわかります。)そこで本当によく見かける名前が木村さん。
今や日本を代表するジャケットデザイナーとなった木村さんですが、きっかけとなったのはスピッツのジャケットデザイン。スピッツとの最初の仕事はシングル「空も飛べるはず」(1994年)から。
美大出身の草野さんはバンドの側面もしっかり見ている人で彼自身、当時はヒプノシスなどの洋楽ジャケットや、レーベルでいうとクリエーションだとか4ADが好きだったそう。
こちらスピッツがデビューした90年代初期に売れてた邦楽CDジャケット。
当時はアーティスト写真メインのものがほとんど。写真のトーンもまだまだ垢抜けてない感じで時代を感じますね。
アーティスト写真を使用していないB’zやチャゲアス(中央下と左下)も、Macが導入し始めて間もない時代だったので、加工がPhotoshopの既存効果使いました感全開のデザイン。そんなデザインが充満していた90年代初期の木村さんの作品がこちら。
Fishmans / Neo Yankees’ Holiday(1993年)
素敵。今見ても、古さを感じないデザインだと思います。このジャケットを見た、草野さんが木村さんにデザインを依頼。
当時、日本で一番好きだったバンドがスピッツでライブにもよく足を運んでたという木村さん、一番好きなバンドからデザインオファー来るなんてどんだけ嬉しかったんでしょうか。運命ですね。それから1度もブレることなく、スピッツのアートワークは木村豊。
90年代前半はまだまだかっこいいデザインが少なかった邦楽ジャケットも、90年代中期から後半にかけて、一気にかっこいいデザインが増えました。
ここにあげたのはほぼ1996年のジャケットですが、この辺はすでに、2018年現在の今見てもさほど見劣りしないデザインではないでしょうか。
上段は左からMy Little Lover、安室奈美恵、globe。いずれもアーティスト写真を使用したジャケットですが、マイラバも顔を見せていないし、安室ちゃんに至っては、時代のアイコンであった彼女の顔を出さず足だけ、globeはまさかの小室氏メイン。だけど全てかっこいい。
そう、トリミングが抜群に良いのです。あとは写真のトーンと、文字の配置。アーティストを出していないミスチル(左下)とジュディマリ(中央下)も90年代前半のような素人デザイン感は皆無で、写真から文字の使い方まで世界観がしっかり作り込まれてます。
右下のドリカムの写真はフォトグラファーも確か有名な海外の人。かっこよかったからいまだに覚えてます。
ちなみにこちらのマイラバとミスチルのジャケットデザインは今も活躍している信藤三雄さん、安室ちゃんとglobeのジャケットデザインはタイクーングラフィックスが手がけたもの。Macの普及で、デザインの質が上がったことも邦楽ジャケット事変の原因かもしれません。
そんな感じで、邦楽ジャケットも1996年あたりを皮切りにデザイン戦国時代に突入し、その先端で大活躍していた武将が木村さんだったわけです。
勝手にスピッツジャケットランキング
木村さんのジャケットデザインは、それはもう引き出しが多くて。手がけるアーティストごとに全然ちがいます。まあその辺は全てこちらのサイトで見れるのでぜひご覧ください。
彼のデザインを見て毎回いいなーと思うのは、日本ぽさを感じるところ。日本ぽさと言っても、よくある和風デザインって意味ではないです。日本語のタイポグラフィのデザインが絶妙にカッコ良いし、歌詞カードの文字の組みや、バックカバーの注釈やバーコードの入れ方に至るまで、とにかく隅々まで神経が行き届いているのです。
そして「かっこいい雰囲気」に逃げないところが好きです。洋楽ジャケットはそういったデザインが多いです。アブストラクトなアートを使ってみたり、意味わからないけどかっこいい写真を使ったり。そんなビジュアルを使うだけで、デザインはとてもかっこよくなるもの。
その雰囲気に逃げず、しっかりコンセプトを感じさせるところが木村さんの最大の魅力かなと私は勝手に思ってます。
ということで、スピッツ以外でも大好きなジャケットはたくさんあるんですが。とりあえず勝手にスピッツジャケットランキングいってみよう。
第5位 花鳥風月 (1999年)
絵本とCDがくっついているようなデザイン(初回限定だけかな?)で、ブックレットのデザインとひっくるめて好きなジャケット。
中面はこんな感じで、ジャケットにさりげなく配置されている花鳥風月のタイポと、中面の記号がリンクしています。
そして、着物姿の日本女性の美しいカットが散りばめられている。顔を出さない絶妙なトリミングがうまいなーと思います。チラリズム。色使いなんかも美しい。
第4位 小さな生き物 (2013年)
これは草野さんのアイデアで、航空工学のパイオニアの一人であるオットー・リリエンタールという人の存在と一緒に、「ジャケットに映るモデル自体が”小さな生き物”であり、彼が必死に飛ぼうとしている」という案を提案されたそう。
そこで木村さんはリリエンタールが飛行実験に使用したグライダーや資料を元に、実寸のグライダーを発注し、撮影。
ここまで世界がしっかり見えると、こちらもワクワクする。バックがまたいいのです。
ね?ストーリーが見えて来ますでしょ?
第3位 ハチミツ (1995年)
木村さんの代表作と言われている。5位、4位を見てもわかりますがスピッツのジャケットに起用されているモデルは全て日本人であり、売れっ子モデルとかでもないです。
親近感を感じるごく普通の女の子。
「へそ曲がりというか、白人の女性とか子供を使ってるジャケットは結構多いでしょう、あれがね、なんか気にくわないんですよ。笑
白人のモデルさんを使うというのは匿名性を守れるという点で便利なんでしょうね。やっぱり、日本人のモデルさんを使うと、その人のCDに見えちゃったりするから。でもあえてそれをやってみたいと思ったんですよね。」
(草野さんのインタビューより)
スピッツのジャケットの主役はフツーの女の子。だけどそのトリミングや世界観のバランスで、全然ダサく見えない。それと、ハチミツのジャケットは左右反転写真らしいです。
反転写真を使うとか、デザイン業界では結構な事故なんですが、木村さん曰く、収まりがよかったから&ちょっと違和感を感じるのが面白かったからと。笑 こういう自由さが、ジャケットデザインの面白いところ。
第2位 醒めない (2016年)
ベビーピンクを基調にした優しいデザイン。このジャケット見たとき、なんとも言えないあったかさを心がキャッチして、ブックレット開いた時からポロっとなりました。もう、お前なんでも泣くやんって話なんですが。
この謎の動物は草野さんが生み出したキャラクター・モニャモニャ。曲もあります。笑 モニャモニャに会いにわざわざ一人で渋谷にもいきました。
モフりたかったですがお手を触れたらあかんやつでした。
第1位 フェイクファー (1998年)
やっぱこれですかね。この写真のトーンとトリミング好きです。逆光ですよ?これ。この独特な光の入り方が、一瞬の美しさを物語っていて、完璧な写真だなって思います。そして、一番好きなのは、中身のデザイン。
こちらのブックレットの文字は草野さんの手書きで、CD本体の文字木村さんの手書き。
ジャケットと同じトーンの日常の何気ない景色を切り取った写真の一部を漂白剤で溶かして白くして、そこに草野さんが手書きで歌詞を書き込んでいます。所々にあるイラストなんかも可愛くて、スピッツのアイデアノートを覗いてるような気持ちになります。
こういう試みは私もやってみたいことの一つ。THE810xでもアンドレは絵が上手だし、アーティスト独自のアートな部分とデザインをうまく組み合わせたものづくりも面白いなあと思っております。
最後に、、
一番好きなスピッツの曲をお送りします。
その名も、
晴れの日はプカプカプー
CD未発表曲。世には出てないですが、一番好きです。なんとものん気で、最高。晴れの日はいつもこれ口ずさんじゃいます。
でわ。