デザイナーが選ぶジャケットデザインと解説【NIRVANA “NEVER MIND”のアートワーク編】
唐突ですが「人生で一番最初に買ったCDって何?」って会話によくなりませんか?
私の場合、邦楽は大黒摩季のら・ら・ら。
洋楽はニルヴァーナのNEVER MINDとマライアキャリーの#1’sです。
大黒摩季は小3の時初めて自分用のCDラジカセを買ってもらい、当時のオリコンチャートで毎週一位だったら・ら・らを最初の一枚として購入しました。当時を振り返ると、やはり流行っていたのはJ-POP。1990年代はJ-POPの黄金期だったと思います。
CDが最も売れていた時代。なんとなく当時から音楽と共にCDジャケットというものに興味がありました。当時は短冊ジャケットの8cmCD。アーティストのロゴや、写真、イラスト、それを見るのがCDを買うもう一つの楽しみでした。
初めての洋楽デビューは、中2の時。マライアキャリーとニルヴァーナ。全くジャンル違いますがなぜか同時購入しました。なんでマライアか?それは流行っていたからという単純な理由。
田舎育ちの私ですが、地元のジャスコとかサティですらマライアのAll I Want for Christmas Is Youが流れまくってました。
#1’sのジャケットはマライアのモノクロ全身写真。そこに配置されたMARIAH、蝶のアイコン、タイトルの#1’s。シンプルなデザインがかっこ良くて。
当時のマライアは本当に美しかった。圧倒的存在感、全身写真だけで絵になるような。
マライアのジャケットについても面白いネタがあるので、それはまた今度詳しく書きたいと思います。
ニルヴァーナに関しては当時のカリスマだった椎名林檎のギブスの歌詞から。
「だってカートみたいだから~あたしがコートニーじゃない don’t U θink? 」のところ。絶賛中2病まっさかりだったので。
実際、椎名林檎はニルヴァーナに影響を受けておらず、当時の彼氏がニルヴァーナ好きだったらしいですが、ギブスのMVはニルヴァーナのHeart-Shaped Boxへのオマージュ的なものを感じます。
ギブス
Heart-Shaped Box
NIRVANA
文字の並びだけで、音楽好きな人ならロゴとアルバムジャケットが思い浮かぶんじゃないでしょうか。
説明する必要もないと思いますが、ニルヴァーナは1990年代初頭のグランジブームの代表。ロック史に残る名曲を数多く生み出したバンド。
フロントマンのカート・コバーンはカリスマ的人気を誇ってましたが、薬物依存で精神を蝕まれ、人気絶頂の1994年に自宅でショットガンをぶっ放し、自殺。
活動期間はわずか4年。オリジナルアルバム3枚を世に残し、カートは去りました。享年27歳。
生き急ぐとはこういうことなのかとニルヴァーナを聴くたびに思います。
その後バンドは解散しますが、ドラムのデイヴ・グロール(写真左)はFoo fightersを結成。
グラミー賞を獲得するほどの成功をおさめています。見かけ通りの超ナイスガイで、人柄も音楽も最高。
そんな彼らが作ったセカンドアルバムNEVER MINDですが、赤ちゃんがプールでお金追いかけてるジャケットは、衝撃でした。今見るとお札の合成感はすごいですが。
何より、NEVER MINDの文字が水面に揺れてるようなデザインになっていたのにグっときました。
なんだこのさりげなさ、デザインってかっこいい!と思ったきっかけだったと思います。
とういうことで今回はそのNIRVANAのジャケットについて。
NEVER MIND
1991年に発売されたこちらのアルバム。これはもう、ロック史にのこる名盤ですね。発売された当初から驚異的なセールスを記録し、全米チャート1位。全米にグランジブームを一気にぶちかましたアルバムです。
イントロ聴いたら誰でも聴いたことのあるSmells Like Teen Spirit、In Bloom、Come as You Are、Lithium、などなどヒット曲が詰まった一枚。
私は未だにイライラの不協和音が襲ってくるとSmells Like Teen Spiritのイントロが頭の中で流れはじめ、イライラの絶頂でサビが流れカートと共に脳内で叫びます。そのへん中2から成長してませぬ。
Smells Like Teen Spirit
ニルヴァーナ?ああ、あの赤ちゃんのジャケットね。ってくらい、アイコンとして頭に残るビジュアルだと思います。ジャケットデザインで一番大事なのはそこだと思ってます。
- アイコンとして記憶に残るものにすること
- 曲やアーティストとリンクするアイコンにすること
そういう点から見るとこのジャケットは完璧ニルヴァーナのアイコンとして成立します。
「プール・赤ちゃん・1ドル札」この3ワードだけでニルヴァーナってなるので。
NEVER MINDを作ったクリエイター
NEVER MINDジャケットのデザイナーはロバート・フィッシャー(Robert Fisher)。
他にもベックなどのジャケットを手がけたアートディレクターですが色んなジャンルのアーティストを手がけているわりに彼に関しての情報は本当に少ないです。
スレイヤー(※写真右)のジャケットとか、テイストは違ういますがちょっとニルヴァーナのような闇を感じます。自分で描いているらしいですが。
赤ちゃんとバンドメンバー、両者の姿を水中で撮影したフォトグラファーはカーク・ウェドル(Kirk Weddle)。
1ドル札で釣るってアイデアはカートのアイデアらしいのですが水中に裸の赤ちゃんというアイデアは誰のアイデアだったかはわからず、未だにミステリーだそうです。
彼のインタビューを読みましたが、カークは当時、水中フォトグラファーとして売り出していて白羽の矢が立ったそうです。なぜならレスキューダイバーの資格も持っていたから。そう、溺れても大丈夫という理由です。大事ですね。
撮影はすごく大変そうに見えて5分くらいでぱぱっと終わったらしいのですが、ジャケットの赤ちゃんはカークの友人の息子ちゃんで生後4ヶ月!初めての水中デビュー。軽く虐待です。
実際は赤ちゃんより、メンバーの撮影のほうが手こずったとか。
ツアー中でとても疲れていたのと、メンバー全員、水が苦手だったそうです。
カートにいたっては到着するなりプールサイドで昼寝し始めたらしい。ザ・自己中。
こちらで当時のレア撮影写真が見れる(プールサイドで昼寝するカートも)。
→ http://www.modernrocksgallery.com/shop-nirvana-nevermind
いろんなカットを見ましたが、水の中の写真というのは色のトーンなんかも独特でいいなと思います。
ちなみに私も以前プールでライフガードの仕事をしていたので水中撮影やりたいってアーティストは連絡ください。デザイン&溺れたら助けます。水中撮影したい。
25歳になったNEVER MINDの赤ちゃん
近年、ジャケットの赤ちゃんが現在25歳になってるというニュースを見ました。
NEVER MINDの25周年を記念し、当時と同じ水中で泳ぐ写真を再現した写真を発表したそうです。
彼の名はスペンサー・エルデンさん。そう、フォトグラファーのカークの友人の息子。現在はストリートアーティスト。本人は今回もパンツを脱いで撮影したいと熱望したらしいが、カメラマンが却下。
さすがに、25歳はあかんです。ただの変態になってしまう。
どことなくカートに似てる?
ニルヴァーナの音楽を聴いて育ったのかなとか、色々感慨深いですね。
NEVER MINDのパロディージャケット
これに関しては、紹介したいものがたっくさんあるのですが、この名盤NEVER MINDも色んなアーティストのリスペクトを受け、様々なパロディージャケットが生まれている。その代表格はやはりこれ。
ウィアード・アル・ヤンコビック(“Weird Al” Yankovic )のOFF THE DEEP END。
彼はパロディ音楽の第一人者でヒット曲の替え歌などで有名。
『Eat It』『Poodle Hat』『Mandatory Fun』の3枚のアルバムはまさかのグラミー賞最優秀コメディアルバム賞を受賞。
こちらがSmells Like Teen Spiritをパロッた”Smells Like Nirvana”
メロディーは同じで歌詞は和訳するとニルヴァーナはなに歌ってんのかわかんねーって内容をずっと叫んでます。ジャケットでもわかる通り、かなりディスってる。だけど彼のパロディソングは歌詞がしっかり練られていて何気に面白い。
お次はこちら、Soul Jazz Recordsから発売された
No Seattle Forgotten Sounds Of The North-West Grunge Era1986-97.
80年代から90年代にかけ、アメリカ北西圏、ノースウェストエリアから起こったグランジムーヴメント。当時のシアトルは、そのニルヴァーナを筆頭に、パールジャム、サウンドガーデンなどの名バンドが結成された都市。
そんなシアトルでニルヴァーナと同時期に活動し、日の目をみることなく消えて行ったバンドたちのコンピ。溺れている子供は、音楽シーンを泳ぎきれず消えて行ったバンド達を表現しています。せつないが面白いアイデア。
最後は日本から二枚。2枚ともアニメのサントラ。
魁!!クロマティ高校オリジナルドラマCD
クロマティ高校は他にもQUEENのパロディもやってました。このロボット、メカ沢っていうらしいです。小さいのが弟B。メカ、泳いじゃあかんやんってとこで既にギャグ成立で面白い。
IKAMUSUME ORIGINAL SOUNDTRACK2
こちらは「侵略!?イカ娘」ってアニメのオリジナルサントラ。
イカがエビで釣られようとしている構図です。収録曲のタイトルが面白かったです。
<収録曲>
01. もっとピンチじゃなイカ?
02. 復活でゲソ!
03. HIGH POWERED(TV ver.) / 歌:スフィア
04. 襲来!侵略者
05. 侵略部!イカ娘
06. イカの常識でゲソ
07. 病んでなイカ?
08. 禁じられた遊びじゃなイカ?
09. ダークサイド・オーラ
10. 手に汗握る攻防戦でゲソ!
etc…
このアニメの始まりを見て納得。何となくトーンがNEVER MIND。さすがアニメ大国日本。アニメのサントラでニルヴァーナ使うところがセンスあるなと思いました。
このように数多くのパロディジャケットが生まれてますが、成立するのは、このアルバムビジュアルがあまりにも偉大だからでしょう。
以上、こんな感じで今後も面白いジャケットを紹介していきたいと思います。
では、また。