デザイナーが選ぶジャケットデザインと解説【ザ・ローリング・ストーンズ展とアートワーク編】
近年、デヴィッドボウイ展、KISS展、B’z展、ラルク展などなど、海外国内問わずアーティスト関連の展示があるのが嬉しいです。
音楽のデザインや映像はとてもクリエイティブなものが多いので、ある程度ファンがいるアーティストは音源販売、グッズ販売、ライブの他にもこういった展示をやるというのも面白いですね。大規模なものじゃなくても、小さなギャラリーや、デザインフェスタのようなイベントもあるので、そういったものをどんどん利用してファンとのコミュニケーションの場やクリエイティブな活動を打ち出して行くというのも一つのプロモーションの手かもしれません。
さて、今回ご紹介するのは言わずと知れた世界的ロックバンド、ザ・ローリング・ストーンズのアートワークです。先月行ったローリングストーンズ展の内容を絡めながら彼らのアートワークについて解説していきたいと思います。
The Rolling Stones (ザ・ローリング・ストーンズ)
1962年4月のイギリスのロンドンで、ブライアン・ジョーンズ(ギター、ハーモニカ)、イアン・スチュワート(ピアノ)、ミック・ジャガー(リードヴォーカル、ハーモニカ)、キース・リチャーズ(ギター、ボーカル)によって結成、その後間もなくベーシストのビル・ワイマンとドラマーのチャーリー・ワッツが参加した。
結成当初のリーダーはジョーンズであったが、後にジャガーとリチャーズがコンビで作曲を行い、グループをリードするようになった。1969年、ジョーンズは体調不良と法律問題のためバンドへの貢献が減少しツアーへの参加もできなくなり、バンドを脱退、その3週間後にプールで溺死した。
ジョーンズの後任としてミック・テイラーが加入、1974年に脱退するまで活動を続けた。その後、ロン・ウッドが加入する。ワイマンは、1993年にバンドを脱退、後任としてダリル・ジョーンズがベースを担当するようになるが、正式メンバーとしては加入していない。
スチュワートは、1963年に公式メンバーから外されるが、バンドのロードマネージャーを続け、1985年に死去するまでピアニストとしてツアーやレコーディングに参加した。1982年以降は、チャック・リーヴェルがバンドのキーボードを担当している。
1960年代前半から現在まで半世紀以上、1度も解散することなく第一線で活躍を続ける、ロック界の最高峰に君臨するバンドである。イギリスでは22作のスタジオアルバム(アメリカでは24作)、11枚のライブアルバム(アメリカでは12作)、多くのコンピレーションをリリースし、現在までの全世界での売り上げは2億枚を超える。
2億枚とか、、数字に弱いHamajiですらすごいということだけはわかります。メンバーチェンジがあったとはいえ、1度も解散することなく第一線で活躍し続けているのはすばらしいですね。同時期に活動していたのは、ビートルズやレッド・ツェッペリン。全てイギリスのバンドなのでよく比較対象に挙げられ、どのバンド派かという論議があったりしますが、もはやそんな域越えてどのバンドも伝説レベルになってきてますよね。
とりあえず誰もが1度は耳にしたことがあるであろう名曲をどうぞ。
Satisfaction
近年のストーンズはこういった昔の曲のリリックビデオを出していてそれが最高にかっこいいです。
Hamajiはストーンズなら断然ギタリストのキース・リチャーズが好きです。なぜならパイレーツオブカリビアンにゲスト出演してた彼がめちゃくちゃカッコよかったから。笑
キースの役は主人公ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)の父親エドワード・ティーグ。
めちゃくちゃ渋くないですか?そしてセクシー。もともとジョニー・デップはジャック・スパロウを演じるにあたってキースを意識したと公言していたよう。
当初は「ミッキーを作った会社の映画なんてでるもんか」と言っていたそうですが、ジョニー・デップが自分のギャラを削ってでも共演したいと熱望したため出演が決定。
キースはパイレーツオブカリビアンのPart 3とPart 4に出演しているので是非。ちなみにPart 5にはまさかのポール・マッカートニーもジャック・スパロウの叔父役として出演してます。笑
キャッチーすぎるロゴ「Lips and Tongue」
ストーンズを知っている人でも知らない人でも、一度は見たことがあるであろうビジュアルはこの唇と舌のシンボル「Lips and Tongue」でしょう。
これに敵うロゴがあるか、、!#ローリングストーンズ展 pic.twitter.com/iAZeZso5dW
— Mr.Hamaji (@hamaji_mr) 2019年6月2日
この世にはいろんなロゴが溢れてますが、Hamajiの中ではこのロゴを越えるロゴはありません。バンド名じゃないロゴでここまでロックを象徴するような反権威的なインパクト。ストーンズを知らなくてもTシャツとか着てる人いっぱいいますよね。
その認知度で言えば、世界的ブランドのアップルやナイキと同等ではないでしょうか。バンドのロゴでここまで世に浸透していて、お金を生み出すロゴは他にないでしょう。
そんな「Lips and Tongue」をデザインしたのは、ストーンズの一部アートワークを手がけていたアンディー・ウォーホルと勘違いされてる方が多いですが、実際は違います。
当時ロンドンのアートスクールの学生であったJohn Pasche(ジョン・パッシュ)という人物です。ロイヤルカレッジオブアートというロンドンのアートスクールに依頼してロゴを作ってもらったらどうだろうと提案したのはミック・ジャガー。
それを受けて、ロイヤルカレッジの教員が推薦してきたのが当時24歳の大学院生だったジョン・パッシュだったそうです。確かに、革新的なものを求めるのであればその道に慣れきったプロよりもアマチュアや学生や若い世代に依頼した方が面白くなりそう。
「ミック・ジャガーと会って新しいロゴについてのミーティングをしてほしい、という依頼の手紙を受け取ったんだ。ミックは地元の小さな商店で見つけた切り抜きを僕にくれた。それはヒンドゥー教の女神で、尖った舌を垂らしたカーリーの絵だった。そして彼は、”今こういう物に興味があるんだ。かなりいいと思うんだけど” と言ってきた。僕はその時のミーティングで、何か口を使ったデザインにしたらどうだろうと考えた。その後いくつか下書きをした。それらは最終的な作品に非常に近いもので、ミックもとても気に入ってくれた。」
(ローリングストーンズ展 ジョン・パッシュのインタビューより)
ミック・ジャガーの口元が基になっているという話もたくさんありますが、これは意識していたわけではなく無意識にそうなっていたとのこと。確かに面白いものでミックの口元と似てるんですよね。
「Lips and Tongue」が初めてお披露目されたのは1971年に発表されたシングル「Brown Sugar」から。
見ての通り、初期はバンド名が入った四角のスタンプのロゴがメインでした。その数週間後に発売された名盤「Sticky Fingers」。そこで大々的に印刷されたのがこちらのインサート。
ここからはもうご存知の通り、今も時代を超えて人々を惹きつける不朽のロゴとなりました。
デザイナーのジョン・パッシュはその後もジミ・ヘンドリックスや、ザ・フー等の大物ミュージシャンのアートワークを手がけています。
ザ・ローリング・ストーンズのアートワーク
ビートルズやデヴィットボウイをはじめとするこの世代の大物アーティストは、名曲はもちろん現在も色褪せない有名ジャケットを多数生み出しています。
ファーストアルバムからプロモーションのポスターにいたるまで、ストーンズ(とくにミックとチャーリー)はアーティストであったり、グラフィックデザイナー、フォトグラファーなどのクリエイターたちがバンドの総合的なアイデンティティに大きく関わるということを認識してました。
「アルバムのジャケットはとても重要だった。アーティスティックな主張があったり、特定の方法で自己投影したければ、自分たちでデザインチームを選びたいと思うものだ。
だから毎回 “どういう方法で作っていこうか?このレコードはどういう意義があるのか?” といったことを考えて優秀な人たちに頼むようにしていたよ。」
(ローリングストーンズ展 ミック・ジャガーのインタビューより)
これはほんと大事なことで、すごいミュージシャンって音楽の世界観のみならず自分たちのビジュアルや、アートワークに対してもとても鋭いこだわりを持っています。日本の有名ミュージシャンでいうと、hideだとか、椎名林檎とかは自己ブランディングもすごいなと思いますね。全然普通じゃない。
「イメージはものすごく大事だよ。とにかくミュージシャンは、肝心なのは音楽だけだなんて言いたがるけどもちろん違う。何を着て、どんなルックスで、どう振る舞うか。そういうもの全てが肝心なんだ」
(ローリングストーンズ展 ミック・ジャガーのインタビューより)
そんなこだわりの多いストーンズのアルバムジャケットをいくつかご紹介したいと思います。
Out Of Our Heads(1965年)
まずは1965年にリリースされたオリジナルアルバムの「Out Of Our Heads」。このジャケットはUK盤とUS盤で違う写真が使用されており、曲目も大きく異なります。
UK盤
US盤
このジャケットのなにがいいかっていうと、フロントマンであるミックがめっちゃ後ろにいるんですよね。笑 US盤の方はもはや顔切れちゃってるし。
普通なら、バンドの顔となるボーカルを前面に押し出したジャケットが多いですが、ストーンズはこういったあえてはずしてくる写真を使用しているジャケットがあります。このセンスが絶妙。
このジャケットのデザイナーは不明ですが、フォトグラファーは50年以上にわたりセレブのポートレートやVOGUEのファッションページで活躍してきたDavid Bailey(デヴィッド・ベイリー)です。
ジャズのレコードカバーに影響を受けて写真家を志したというベイリー。ストーンズの他にもジョン・レノン、ポール・マッカートニー、デヴィッド・ボウイ、ビヨンセなどの写真を撮り続けてきた超有名フォトグラファーです。ミックとは彼がストーンズに入る前からの知り合いだったそう。
Sticky Fingers(1971年)
そしておそらくストーンズのジャケットで一番有名な「Sticky Fingers」。1971年にリリースされた同アルバムは彼らが設立したローリング・ストーンズ・レコードからリリースされた初のスタジオアルバムで、全英・全米ともに一位を獲得。ストーンズの最高傑作とも言われている作品です。
そしてなんといっても有名なのが、ジャケットデザインを手がけたのがAndy Warhol(アンディ・ウォーホル)であること。
ジーンズをはいた男性の股間のビジュアルで、ジッパー部分には本物のジッパー(しかも我らがJAPANのYKK製。笑)が取り付けられており、本当に開くことができます。ストーンズのジャケットはこういった「仕掛けジャケット」がいくつかあり、ファンを楽しませる遊び心がうかがえます。
当時、アーティストとして人気が高かったアンディ・ウォーホル。このジャケットに当時ストーンズが支払った額はなんと1万5千ポンド、、(現在だと約15万ポンド=日本円で約2,200万円)。
目が飛び出ますよね。笑
しかもウォーホルが担当したのはコンセプトであり、実際にデザインを担当したのはCraig Braun(クレイグ・ブラウン)という人物。彼はストーンズの他に、カーペンターズのアートワーク等も手がけていたようです。裏面は同じくジーンズ姿のお尻。
ストーンズ展ではジャケットで使用された写真のポラロイドが展示されていました。
「アンディとは決して知らない仲じゃなかったからアルバムタイトルを提案したら、早速あの斬新なデザインで応じてくれたよ。ところがファスナーを上げたら平積みにした時に重みでLP盤の溝の部分が凹んじゃってさ、なんてことはない、チャックを開けておけばよかったんだ。
そうすれば、凹むのは溝がない中央になる。見事な解決法だろ。一時は全てが台無しになるかと思ったよ」
(ローリングストーンズ展 ミック・ジャガーのインタビューより)
ちなみにこのジャケットは、スペイン盤では股間のビジュアルが卑猥とされ、別バージョンのジャケットで発売されてます。蜜でいっぱいの缶詰の中から出てる女性のネバネバした手。
こっちもどうなのって感じですね。デザインは「Lips and Tongue」のロゴを担当したジョン・パッシュ。
Love You Live(1977年)
アンディ・ウォーホルが手がけたものでもう一つ有名なのが1977年にリリースされたライブアルバム「Love You Live」。
Sticky Fingersのジャケットはコンセプトのみウォーホルでしたが、こちらはコンセプト&デザインも一貫してアンディ・ウォーホルが担当してます。彼の作品を知っている方にはおなじみのTHE アンディ・ウォーホルという作風ですね。
コントラストが効いた写真と、輪郭をラフに縁取ったライン、ポップな色使いのシルクスクリーン。これはHamajiもやりたくてオマージュと称して挑戦したんですが、かっこよくなるまでのバランスがとても難しいです。さすがウォーホル大先生って感じです。
「アンディとは他にもアルバムをやったよ。Love You Liveでは娘のジェイドの手を僕が噛んでるんだ」
(ローリングストーンズ展 ミック・ジャガーのインタビューより)
ジャケットの子供の手はミックの娘さんだったよう。
こちらはメンバーでいろんなところを噛み合ってる撮影時のポラなのですが、もう正直この集合体だけでも絵になってますよね。
「ミックが20分遅れて、すごくご機嫌な状態でやってきた。私はストーンズの写真を撮影していた。そのうちみんなもきた。ロン・ウッドに、アール・マグラスに、キース・リチャーズ。キースは最高に素敵な人。大好きだ。」
(ローリングストーンズ展 アンディ・ウォーホルのインタビューより)
ストーンズ展の会場では、ウォーホルによるミックのシルクスクリーンが展示されていました。これは本物見たかったので、感慨深かったです。今見てもめちゃくちゃかっこいい。
Their Satanic Majesties Request(1967年)
1967年にリリースされたセルフプロデュースアルバム。ジャケットを見てもわかりますが、ストーンズの作品の中で最もサイケデリックな一枚。
ミックは、本作の作風にドラッグ使用が大きく影響を及ぼしたことも認めちゃってます。こちらのジャケットもストーンズお得意の「仕掛けジャケット」となっており、オリジナル盤には3D写真が用いられ、見る角度によって絵柄が動くという仕組み。
ところでこのジャケット、どこかで見たことありませんか?
そう、ビートルズの「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」。アルバム自体もめちゃくちゃ売れてますが、このジャケットは歴史に残る1枚で、イギリスのポップアーティストのPeter Blake(ピーター・ブレイク)と、その妻であるJann Haworth(ジャン・ハワース)がデザインを手がけ、二人は1968年にグラミー賞(ベストアルバムカバー部門)を受賞してます。
ビートルズがこちらをリリースしたのが1967年6月1日。ストーンズがTheir Satanic Majesties Requestをリリースしたのが約半年後の1967年11月25日。
これはサージェントに対して真っ向から喧嘩売ってますね。笑 撮影をお願いしたのも、サージェントのジャケットのフォトグラファーを担当したMichael Cooper(マイケル・クーパー)。
彼は若くして亡くなっておりますが、ビートルズ、ストーンズ、ザ・フーらを撮影した幻のロック・カメラマンと言われています。ジャケットの中にはビートルズのメンバーの顔が紛れ込んでることでも有名なジャケットです。笑
とはいえ、ジャケットとして非常に完成度が高くて好きな一枚でもあります。
Some Girls(1978年)
1978年にリリースされたアルバム。全英2位、全米1位を獲得しています。ジャケットのアートディレクションは、グラフィックデザイナーのPeter Corriston(ピータ・コリストン)、イラストはHubert Kretzschmar(ヒューバート・クレッチマー)が手がけています。
このタッグによるアートワークはその後も続き、1981年リリースの「Tatoo You」や、
1983年リリースの「Undercover」も彼らの作品です。
どれもおもしろいアイデアですが、Hamajiが推したいのはおなじみの「仕掛けジャケット」が生きる、「Some girls」です。拡大して見るとわかりますが、このジャケットは女性の顔の部分が切り抜かれ、その中の紙に印刷されているストーンズメンバーの写真が重なり合うというデザイン。
元のアイデアとなっているのは、エボニーマガジンに掲載されていたという広告。ウイッグの広告でしょうか。
「ピーター・コリストンが ”有名女優たちの顔とみんなの顔をカツラの画像にはめ込もう”と提案したんだ。でも被写体、つまりファラ・フォーセット(女優)や、マリリン・モンローや、ルシル・ボール(女優)や、ジュディ・ガーランド(女優)の許可がおりなかったどころか、大半が拒否した。それで仕方なくデザインを差し替えたんだけど、オリジナルは最高だよね」
(ローリングストーンズ展 ミック・ジャガーのインタビューより)
これは何を言ってるかというと中の紙に印刷されていたのは、当初はメンバーの写真だけでなく、有名女優(ファラ・フォーセットやマリリン・モンローなど)の写真も紛れ込んでたんですね。しかも許可取らず勝手に。笑
使用された写真の女優たちはかなりの有名女優たちだったため、もちろんストーンズ側は訴えられ敗訴。セカンドプレスからは、メンバー以外の写真は削除されてしまいました。おもしろいですけどねー。
裁判にまで発展しましたが、非常にポップで目を引くし、細かい仕掛けも面白い。好きなジャケットの一つです。
五反田で行われたザ・ローリング・ストーンズ展では様々な展示がありました。結成当時のメンバーが同居していた部屋を再現した空間や、
結成当時のフライヤーや、ファンクラブのアンケート。
レコーディングスタジオを再現した部屋や、機材の詳細。
ミックスを体験できるブース。
アレキサンダー・マックイーン、プラダ、ディオール、グッチなど、世界の一流メゾンが手がけた70点以上の衣装の展示。
最後に拍子抜けしてしまったのが、入り口にあるストーンズの看板。合成感半端ない。笑
数ある展示の中でも、ジャケットアートワークの展示は特に最高でした。ネットや本だけでは得られなかったエピソードが知れたし、全て写真OKという太っ腹な対応も嬉しかったです。
ストーンズのアートワークはジャケット史に残る名作ばかりなので、是非注目してみてくださいね。
では。