90分の音楽を金のレコードに刻んで宇宙へ——ボイジャー「ゴールデンレコード」にバッハとチャック・ベリーが並んだ理由

ボイジャー探査機に積まれたゴールデンレコード「The Sounds of Earth(地球の音)」(NASA/JPL)
ボイジャー探査機に積まれたゴールデンレコード「The Sounds of Earth(地球の音)」(NASA/JPL)

地球の音楽を、1枚のレコードにまとめてください。聴くのは、地球の言葉も歴史も知らない誰か。いつ、どこで聴かれるかもわかりません。

あなたなら、何を入れますか。

1977年、アメリカの天文学者カール・セーガンと仲間たちは、本当にこの問題を解きました。答えは直径30センチほどの、金めっきを施した銅のレコード。2機の無人探査機ボイジャーに1枚ずつ取りつけられ、いまも太陽系の外へ向かって飛び続けています。

収められた音楽は、およそ90分。バッハがいて、尺八がいて、チャック・ベリーがいます。

宇宙人は、どうやってレコードを再生するのか

ゴールデンレコードのカバー。再生のしかたと、太陽系の位置を示す図が刻まれている(NASA/JPL)
ゴールデンレコードのカバー。再生のしかたと、太陽系の位置を示す図が刻まれている(NASA/JPL)

まず気になるのは、そこです。プレーヤーがなければ、レコードはただの金色の円盤にすぎません。

ボイジャーには、レコードと一緒に針が積まれています。そしてレコードを守るカバーの表面には、上の写真のような図が刻まれました。

左上の図は、レコードと針の置き方。まわりに刻まれた符号は、片面を再生しきるのにかかる時間です。その下の横から見た図には、1回転にかかる時間が記されています。時間の単位には、宇宙のどこでも同じになる、水素原子が出す電波の周期が使われています。右下の小さな二つの円が、その水素原子の図。左下の放射状の線は、太陽系の位置を、周りにある14個のパルサー(規則正しく電波を出す星)からの方角で示した地図です。

右側の四角い図は、レコードに音として入っている画像を、どう映像に戻すかの説明。レコードには音楽のほかに、人の体や食事、街並みなど、115枚の画像も音の信号に変えて刻まれています。

カバーには、ごく微量のウラン238も塗りつけられました。ウランが崩れていく速さは決まっているので、拾った誰かがそれを測れば、打ち上げから何年たったかがわかる。宇宙で使う、時計の役目です。

ここまで準備して、ようやく音楽にたどり着きます。

1曲目はバッハ——27曲が選ばれるまで

音楽の選曲には、セーガンのほか、作家のティモシー・フェリスや、のちにセーガンの妻となるアン・ドルーヤンらが加わりました。

条件は、時代も地域もできるだけ広く。収められた音楽は27曲になりました。

1曲目は、バッハの『ブランデンブルク協奏曲第2番』の第1楽章。トランペットが高く明るく鳴る、晴れた朝のような曲です。バッハはこのほかに2曲、合わせて3曲が選ばれていて、作曲家としては最多です。

続いて、ベートーヴェンの『交響曲第5番「運命」』、モーツァルトのオペラ『魔笛』から「夜の女王のアリア」、ストラヴィンスキーの『春の祭典』。クラシックの名曲が並ぶ一方で、ジャワのガムラン、セネガルの打楽器、オーストラリア先住民の歌、ペルーのパンパイプ、アゼルバイジャンの管楽器バラバン、ジョージアの男声合唱、インドの古典声楽、中国の古琴の曲が入りました。

日本からは、尺八の古典曲『鶴の巣籠(つるのすごもり)』。名手・山口五郎の演奏です。鶴の親子の姿を、一本の竹の笛で描くと伝えられる曲。息の音まで聞こえる尺八の響きが、ガムランや合唱のあいだで、ひときわ静かに鳴ります。

アメリカからは、ブラインド・ウィリー・ジョンソンの『暗い夜だった、冷たい大地だった』。1927年に録音された、盲目の歌い手によるゴスペル・ブルースです。言葉はありません。スライド・ギターのうなりと、ハミングとも嘆きともつかない声だけが3分ほど続く。歌詞のない曲だから、地球の言葉を知らない相手にも届くかもしれない。そう考えて選んだのだとしたら、見事な判断です。

そこに、ルイ・アームストロングのジャズと、チャック・ベリーのロックンロールが加わりました。

チャック・ベリー『ジョニー・B.グッド』は、なぜ選ばれたのか

ステージに並んだチャック・ベリー(左)とカール・セーガン(NASA/JPL)
ステージに並んだチャック・ベリー(左)とカール・セーガン(NASA/JPL)

1958年のヒット曲『ジョニー・B.グッド』。田舎の少年がギター一本でスターを夢見る、2分半ほどの曲です。

この曲には、選考の段階で反対意見が出たと伝えられます。ロックンロールは子どもっぽい音楽だ、宇宙に送る記録にふさわしくない、と。セーガンは、地球には子どもっぽい人間がたくさんいるのだから、と答えたそうです。

私は、この返事がいちばん好きです。地球の音楽の代表を選ぶなら、立派な曲だけを並べるより、若者が実際に踊っている音を入れるほうが正直だ。セーガンは、地球を飾るのではなく、ありのまま記録しようとしていました。

いっぽうで、入らなかった曲もあります。ビートルズの『ヒア・カムズ・ザ・サン』は、メンバーは乗り気だったものの、レコード会社が権利の許可を出さなかったと伝えられています。宇宙に送るレコードでも、地球の著作権からは逃げられなかった。

選曲の途中で、二人は結婚を決めた

ここで一つ、寄り道をします。

選曲のさなか、アン・ドルーヤンは中国の古琴の名曲『流水』を探していました。ようやく見つけた録音を聴いて、セーガンに電話をかける。この電話で、二人はお互いの気持ちを確かめ、結婚を決めたと、ドルーヤン本人がのちに語っています。

ドルーヤンはその後、瞑想しているあいだの自分の脳波を録音し、それもレコードに収められました。考えていたことの中には、恋に落ちることも含まれていた、と彼女は話しています。

宇宙へ向かうレコードの中には、恋をしている人間の、脳の音まで入っている。

最後の1曲は、ベートーヴェンの「カヴァティーナ」

27曲目、つまりレコードの最後に置かれたのは、ベートーヴェンの『弦楽四重奏曲第13番』の第5楽章「カヴァティーナ」です。

耳が聞こえなくなった晩年のベートーヴェンが書いた、4本の弦楽器だけの、静かでゆっくりした歌。途中で、第1ヴァイオリンが息をつまらせるように、とぎれとぎれに旋律を弾く部分があります。楽譜には「胸がしめつけられるように」という意味の指示が書かれている。

バッハの晴れやかなトランペットで始まり、ベートーヴェンのため息のような弦で終わる。90分の曲順そのものが、一つの長い物語になっています。

打ち上げから35年後の2012年、ボイジャー1号は太陽の影響が届く範囲を抜け、星と星のあいだの空間に入りました。2018年には2号も続いています。

ボイジャー探査機の想像図。白い円盤はアンテナ(NASA/JPL)
ボイジャー探査機の想像図。白い円盤はアンテナ(NASA/JPL)

よくある質問

Q. ゴールデンレコードの中身は、地球で聴けますか?
聴けます。2017年には、レコードの内容を収めた一般向けのレコードやCDが発売されました。収録曲の一覧はNASAのウェブサイトでも公開されています。個々の曲は、それぞれの演奏者の録音として探すこともできます。

Q. 音楽のほかには、何が入っていますか?
55の言語によるあいさつ、波や風や雷、鳥やクジラの声、笑い声や足音、心臓の鼓動などの「地球の音」、そして音の信号に変えた115枚の画像が入っています。

まとめ

  • 1977年、2機のボイジャー探査機に、地球の音と画像と音楽を収めた金めっきのレコードが1枚ずつ積まれた
  • カバーには再生方法、太陽系の位置、時間を測るためのウランまで刻まれている
  • 音楽は27曲・約90分。バッハで始まり、尺八、ガムラン、ジャズ、チャック・ベリーを経て、ベートーヴェンの「カヴァティーナ」で終わる
  • 『ジョニー・B.グッド』には反対もあったが、セーガンは地球の「ありのまま」を選んだ

今夜1曲だけ聴くなら、最後の「カヴァティーナ」を選んでください。宇宙の暗がりの中で、いつか誰かが最後に耳にするかもしれない地球の音楽です。7分ほどの曲なので、部屋の明かりを消して聴くのがいい。

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