ファンク入門|ジェームス・ブラウンが発明した「The One」1拍目の革命

1973年、ステージで踊るジェームス・ブラウン(Photo: Heinrich Klaffs / CC BY-SA 2.0)
1973年、ステージで踊るジェームス・ブラウン(Photo: Heinrich Klaffs / CC BY-SA 2.0)

ワン、ツー、スリー、フォー。

手拍子をするなら、あなたはどこで叩きますか。

ロックやポップスに慣れた体は、2拍目と4拍目で叩きます。いわゆる裏打ち。ところが1960年代半ば、この常識を逆さまにした男がいました。

すべての体重を、1拍目に乗せる。

ジェームス・ブラウンがこだわり抜いた「The One(ザ・ワン)」の一撃から、ファンクという音楽が生まれました。メロディではなく、リズムが主役になる音楽。その仕組みを、楽譜が読めなくても分かる言葉でほどいていきます。

ファンクの重心は1拍目——「The One」は何を変えたのか

小節の頭、1拍目。ここに全員の力を集める。

ジェームス・ブラウンがバンドに求めたのは、この一点でした。1拍目にアクセントをそろえ、残りの3拍は自由に散らす。ドン、と床を踏む音がまずあって、その反動で体が浮く。ファンクのリズムは、突きつめるとこの繰り返しです。

たとえて言えば、縄跳びです。

縄が地面を打つ瞬間が「The One」。跳んでいる間が残りの3拍。地面を打つ音さえ合っていれば、空中では何をしてもいい。だからファンクの演奏は、きっちりそろっているのに自由に聞こえます。

1拍目を待つ体は、自然と前のめりになる。

この「待たせる」感覚こそ、ファンクが踊らせる仕掛けの中心です。では、それを最初に形にした曲はどれか。

ギターがドラムになった日——『パパズ・ガット・ア・ブランド・ニュー・バッグ』の発明

1965年の『パパズ・ガット・ア・ブランド・ニュー・バッグ』。ファンクの出発点として、いちばんよく名前が挙がる曲です。

聴いてまず気づくのは、ギターの音の短さ。コードをジャーンと鳴らさず、チャッ、チャッと切り詰めて、打楽器のように弾いています。ホーン隊も同じで、メロディを吹く代わりに、短い一撃をリズムの隙間に打ち込む。

ジェームス・ブラウンは「すべての楽器はドラムだ」という考え方でバンドを鳴らしたと伝えられます。

歌さえ例外ではありません。彼の叫びやうなり声は、歌詞の意味を運ぶより先に、リズムの一部として機能します。1967年の『コールド・スウェット』では、コード進行がほとんど動かなくなりました。和音の変化で聴かせる音楽から、リズムの反復で聴かせる音楽へ。

ここで一つ、疑問が浮かびます。

同じことを何分も繰り返して、なぜ飽きないのか。

ワンコードで踊り続けられる理由——リズムがメロディを食う瞬間

ファンクの土台を支えるエレクトリックベース。指で弾き、親指で叩く(Photo: Don Wright / CC BY 2.0)
ファンクの土台を支えるエレクトリックベース。指で弾き、親指で叩く(Photo: Don Wright / CC BY 2.0)

ファンクの曲には、サビらしいサビがないものが少なくありません。

コードは一つか二つ。同じフレーズが延々と回る。それでも飽きないのは、反復の中に小さな「ずれ」が仕込まれているからです。ベースが半拍食い込む。ギターの刻みが少し前へ突っ込む。ドラムは正確に、他の楽器はその周りで揺れる。

この揺れ全体を、グルーヴと呼びます。

もう一つの主役は「隙間」です。ファンクの名手は、音を足すより抜きます。音と音のあいだの沈黙が、次の1拍目への期待をふくらませる。

私は、ファンクの快感の正体は「寸止め」だと思っています。盛り上がりが来そうで、来ない。じらされた体は、勝手に動き出します。

ジェームス・ブラウンのバンドでベースを弾いた若者に、ブーツィー・コリンズがいます。彼が次に向かった先が、ファンクをそのまま宇宙へ連れて行きました。

宇宙船でステージに降りた男——ジョージ・クリントンとP-Funkの銀河

P-Funkのステージ装置「マザーシップ」。ワシントンD.C.の国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館に展示されています(Photo: Fuzheado / CC BY-SA 4.0)
P-Funkのステージ装置「マザーシップ」。ワシントンD.C.の国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館に展示されています(Photo: Fuzheado / CC BY-SA 4.0)

1970年代、ファンクはジョージ・クリントンの手で別の惑星に到達します。

クリントンはパーラメントとファンカデリックという二つのバンドを同時に率いました。合わせて「P-Funk(Pファンク)」。ホーンとコーラスで押すパーラメント、ロック寄りに歪むファンカデリック。同じメンバーが名前を替えて行き来する、音楽の二重国籍です。

1975年のアルバム『マザーシップ・コネクション』では、宇宙から来たファンクの使者という物語を丸ごと作り上げました。コンサートでは天井から銀色の宇宙船「マザーシップ」が降下し、クリントンが降り立つ。この演出に使われた宇宙船は、後年ワシントンD.C.の博物館に収蔵されるほどの文化財になりました。

ふざけているようで、芯は一つです。

どの曲の底にも、ジェームス・ブラウン直系の「The One」が脈打っている。衣装と物語が宇宙まで飛んでも、重心は1拍目から動きませんでした。

そしてこの鼓動は、ファンクが下火になっても止まりません。

「The One」は死なない——サンプリングされ続ける1拍目

1980年代以降、ファンクのレコードは新しい聴かれ方をします。

ヒップホップのプロデューサーたちが、ドラムの一節を切り取って曲の土台にし始めました。ジェームス・ブラウンの音源は、最も多くサンプリングされたものの一つに数えられます。P-Funkのうねるベースも、西海岸のヒップホップに受け継がれました。

血筋は今も続いています。

プリンスの鋭いギターカッティング、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのベース、ブルーノ・マーズのステージ。ジャンル名としてのファンクを知らなくても、あなたの再生履歴のどこかで「The One」は鳴っています。

よくある質問

Q. ファンクとソウルはどう違うのですか?
ざっくり言えば、ソウルは歌とメロディを聴かせる音楽、ファンクはリズムとグルーヴで踊らせる音楽です。ジェームス・ブラウンはソウル歌手として出発し、重心をリズムへ移すことでファンクを切り開きました。

Q. 最初に聴くならどの曲ですか?
『パパズ・ガット・ア・ブランド・ニュー・バッグ』→『ゲット・アップ・アイ・フィール・ライク・ビーイング・ア・セックス・マシーン』→『マザーシップ・コネクション』の順がおすすめです。発明→完成→宇宙、とファンクの進化を3曲でたどれます。

Q. そもそも「ファンク」とはどういう意味ですか?
英語のスラングで、もともとは「強い体臭」を指す言葉だったと伝えられます。上品とは正反対の、汗の匂いのする音楽。蔑称だった言葉を、誇りを込めて名乗り返したところにこの音楽の姿勢が出ています。

まとめ:今夜、1拍目にうなずく

  • ファンクの重心は1拍目「The One」。2・4拍の裏打ちとは逆の発想
  • 1965年『パパズ・ガット・ア・ブランド・ニュー・バッグ』でギターもホーンも打楽器になった
  • ワンコードでも飽きないのは、反復の中の「ずれ」と「隙間」がグルーヴを生むから
  • ジョージ・クリントンのP-Funkは、The Oneを保ったまま物語を宇宙まで広げた
  • ファンクの鼓動はサンプリングを通じて、今の音楽の中で鳴り続けている

今日やることは一つ。『ゲット・アップ・アイ・フィール・ライク・ビーイング・ア・セックス・マシーン』を再生して、1拍目だけで首を縦に振ってください。ワン、ツー、スリー、フォーの「ワン」。冒頭の手拍子の位置が、もう変わっているはずです。

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